萩(はぎ) |
|
芭蕉句 | 一つ家に遊女も寐たり萩と月(鳥のみち) 小萩ちれますほの小貝小盃(薦獅子集) 浪の間や小貝にまじる萩の塵(類柑子) しら露もこぼさぬ萩のうねり哉(芭蕉庵小文庫) |
〔本意・形状〕 | 山上憶良の秋の七草の筆頭に挙げられるように、萩は古くから日本人に愛され、詩歌に詠まれてきた。本来は灌木であるが、草冠に秋と書いてハギと読ませて親しんでいたのであろう。 |
〔季題の歴史〕 | 萩は『万葉集』に最も多く詠まれた花で一四一首とされ、二位が梅である。『古今六帖』に「秋萩の花咲きにけり高砂の尾上の鹿は今や鳴くらむ」(藤原敏行『古今集』巻四秋上)外多数見られ、また、萩と鹿の取り合わせも良く知られている。 |
〔類題 傍題〕 | 鹿鳴草(しかなきぐさ)・鹿妻草(しかつまぐさ)・初見草(はつみぐさ)・古枝草(ふるえぐさ)・玉見草(たまみぐさ)・野守草(のもりぐさ)・糸萩・小萩・真萩・白萩・宮城野萩・秋萩・初萩・萩むら・萩原・野萩・こぼれ萩・乱れ萩・萩散る・括り萩・萩の宿・萩の下風・萩の下露。 |
〔例 句〕 | 萩咲いて家賃五円の家に住む 正岡子規 萩の風何か急かるゝ何ならむ 水原秋櫻子 低く垂れその上に垂れ萩の花 高野素十 萩流れ手毬の糸を解く如く 上野泰 君たちの恋句ばかりの夜の萩 石田波郷 |
秋の暮(あきのくれ) | |
芭蕉句 | 枯枝に烏のとまりたるや秋の暮(東日記) しにもせぬ旅寝の果てよ秋の暮(野ざらし紀行) こちらむけ我もさびしき秋の暮(笈日記) 此道や行人なしに秋の暮(其便) |
〔本意・形状〕 | 清少納言は『枕草子』に「秋は夕暮」と讃えている。しかし季語「秋の暮」には、秋の夕暮れという意味と秋の季節の暮(末)という意味の両方が混在し、古くから両義を内在しながら曖昧に用いられてきた。 |
〔季題の歴史〕 | 『新古今集』「三夕」の歌あたりから秋の夕暮れの季感を固定させた(山本健吉『基本季語500選』)。 「さびしさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮」寂蓮、 「心なき身にもあはれはしられけり鴫立つ沢の秋の夕暮」西行、 「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮」定家。 「どれも寂しい夕暮れの風景。ここから寂しげにして「もののあはれ」の極みという「秋の暮」の本意が定まった」(長谷川櫂『角川俳句大歳時記』)。 |
〔類題 傍題〕 | 秋の夕暮・秋の夕・秋夕(しゅうせき) |
〔例 句〕 | 山門をぎいと鎖すや秋の暮 正岡子規 秋の暮山脈いづこへか帰る 山口誓子 秋の暮大魚の骨を海が引く 西東三鬼 秋の暮業火となりて秬は燃ゆ 石田波郷 足もとはもうまつくらや秋の暮 草間時彦 |
(根本梨花) |